ジャズコーラスの学校第2回編曲者 中山義恵さんインタビュー

ジャズコーラスの学校 第2回の編曲を担当してくださった、中山義恵さんにお話をうかがいました。
経歴、曲のアレンジについて、編曲のあり方から今の日本ブームのゲーム音楽の話まで!
参加していない方でも興味深いインタビューです。ぜひご覧ください。

 

話し手 中山義恵さん(編曲者)
聞き手 三橋りえ(JVSJ 代表理事)、木場義則(JVSJ 常任理事)
【これまでの経歴など】

木場
これまでの経歴や、活動歴を教えてください。

中山義恵さん(以下中山、敬称略)
国立音楽大学の音楽教育学科卒業して、中学高校音楽教員免許を取得しました。その後は11年間、事務職で働きながら、アカペラやビッグバンドジャズの活動を楽しんでいました。

勤続10年を迎えた頃、やはり音楽を仕事にしたいと思いましたが、卒業後は主にジャズやポピュラー音楽に親しんでいたため、国立で学んだクラシックの知識を活かせる仕事に就くことは考えられませんでした。そこで、バークリー教員の松岡由美子先生にご相談したところ、8月にコネチカット州で松岡先生が講師として毎年参加されるアカペラ合唱キャンプへおいでよと、参加を勧められました。そのキャンプに参加して、アメリカでは老若男女問わず音楽がいかに日常的に親しまれているか体感しました。
キャンプ終了後も、具体的にどういった職に転職するか思い悩んでいましたが、松岡先生から「あなたバークリーに来れば? 」と言われたのがきっかけで、留学を決断しました!

翌月9月に受験を申し込んで。10月から月2回ジャズ理論のスクールに通って、年末にトロンボーンのレッスンを受け始め、バレンタインの頃にトロンボーンで受験。2月末に退職し、3月末日に合格発表と学費の半額ほど奨学金をいただけるっていう通知を受けて。留学を決心してから1年後にはバークリー音大に入学していました(笑)。
3年後にバークリーを卒業しました。

木場
卒業して、3年でしたっけ?

中山
ちょうど3年経ちました。 その後は、ロサンゼルスを拠点にフリーで活動をしてます。音楽製作のメッカですよね。編曲提供や、バックコーラスとか、トロンボーンで共演とか。スタジオレコーディング、楽譜の出版などです。 グラミー賞アーティストですとか、世界で活躍する方々とのお仕事をさせていただいてます。
ジェイコブ・コリアー、アレハンドロ・サンツ、ジョイス・モレノ、ミルトン・ナシメント、ウーマン・オブ・ザ・ワールド、ヴィクトリー・ボイド。バークリーの仲間とメキシコで演奏旅行もしました。

【Don’t sit under the apple tree について】

木場
さて、私たち JVSJ(日本ジャズボーカリスト協会)はジャズボー カルとジャズコーラスを活動の両輪として捉えているんですが、 今回中山さんに新編曲を提供していただきました。選曲について教えてください。

中山
バークリーに「ヴィンテージ・ボーカルアンサンブル」という授業があったんですけど、そこで出会った1940年代の楽曲です。 日本では一般的に知られていない、アメリカを代表する歴史的アーティストの作品です。

三橋
グレン・ミラーの名曲ですよね。

中山
はい、この曲はアンドリューズ・シスターズという三姉妹がグレン・ミラー楽団の伴奏で演奏したことでヒットしました。

三橋
これ、いい選曲だなと感じました。たわいもない普遍的な、人間みんなの日常を歌っている。今殺伐としているし(笑)。

中山
第二次大戦で離れ離れになってしまう恋人に向けて、「他の誰ともりんごの木の下に座らないでよ。」と歌う可愛い曲です。彼の浮気を心配する内容なので、あくまで笑顔で明るく軽快な演奏を心がけていただくといいです(笑)。
英詞で比較的テンポが早いのですが、歌詞の繰り返しが多いので、覚える負担は少ないかと思います。練習は、音程なしのリズムだけで読む練習をするといいと思います。まずは無理なくこなせる遅いテンポから始めて、少しずつテンポアップしていく方法をお勧めします。

あとは密集ハーモニーをいかに簡単そうに演奏するかが、楽曲の世界観を再現するコツだと思います。アンドリューズ・シスターズは密集和音のボーカル・ハーモニーで大変有名ですので、そこは変にいじりすぎず、原作をそのまま混声で演奏できるアレンジを心がけています。

木場
確かにこのクロスハーモニー、歌うのとっても難しいです。

三橋
でもジャズコーラスってやはり緻密な積み重ねですから。私たち、めんどくさいことをやろうとしているんですよね(笑)。

【Vocal JAZZ の現在】

三橋
私は20年近く前に、内堀勝氏のビッグバンドのミックスダウンでアメリカへ行ったんです。その時に空き時間があったので、勧められてジャズコーラスのセミナーへ参加しました。当時カッコイイのがたくさん流行ってたんですが、ミシェル・ウィアーっていう女性がすごくいい指導をしてるって噂があったんですよ。ニューヨークから、ダーモン・ミーダーも来るしって。

そこでサンアントニオ州立大学のコーラスを聴いたんです。ブルース・ロジャースって人が教えてたんですが、当時全米1位で。初めて目の当たりにして、ちょっと私は感動してしまって。
私は歌のデビューはビッグバンドなので、ハーモニーを人の声でやっていることに感動しました。

私はそれまでソロばっかりやってたんです。楽器の人は最初からソルフェージュをやって学びますよね。歌の人のように「ソロでめちゃくちゃ歌い」でも調子が良ければなんとなく売れてっちゃうみたいなのはないって身内に怒られてた(笑)。
スティーヴ・ゼグリーさんとかミッシェル・ウィアーさんとかやってきたのはミュージシャンたれっていう音楽教育なんですよね。それと若者の情操教育。我慢して大変なことやり遂げるっていう。それは価値がある。

木場
アメリカの Vocal Jazzシーンって中山さんからみてどんな状況ですか?

中山
今のアメリカは多民族で、多宗教で、もちろん無宗教も多いですが、やはりクリスチャンやユダヤ教など、礼拝で賛美歌を歌う風習が根強く残っていますので、合唱愛好家が多いですね。あと音楽が義務教育とされていない州が多いことも関係しているかもしれません。
ビッグバンドが広く知られていることから、一緒に演奏するVocal Jazzも親しまれています。マンハッタン・トランスファーやニューヨーク・ヴォイセズなど、グラミー賞アーティストが今でも現役で演奏し続けていることも影響が大きいかなと感じます。

あと、高校からアカペラグループのクラブ・サークル活動が盛んで、自分たちのオリジナルアレンジをどんどん演奏します。個性の主張が重要視される国なので、市販の曲ばかり演奏しているグループは評価されないんです。音楽に限らず、理論やうまくいくかどうかは気にせず、思うようにどんどん個性を主張する国民性だと感じます。とにかくやってみる。バークリーでもト音記号、四分音符から習う授業があるぐらいなんです。理論は後から!という文化ですね。
地域や校内でのアカペラコンテストも盛んです。振り付けや衣装も総合的に演出されていて、非常にレベルの高い内容です。

木場
なるほど。日本ではこれからですよね。普及ということを考えると、教える人の存在も大きな課題です。

三橋
私も大学で教えて、イタリア系やドイツ系の歌唱指導にも触れましたが、ジャズは同じところもあるけど少し違うところもある。
劇団四季ができた時に、浅利慶太がとある発声家をアメリカから呼んだんですね。これがないとミュージカルにならないってところを教えた。ほんのちょっとの外し、英語の発音のこととか。
フィーリングとか兼ね合い、その押したり引いたりを明確に示せる指導者の存在は大切です。中山さんにも日本で教えて欲しいです。

中山
ありがとうございます、ぜひ(笑)。

木場
スタイルやニュアンスを説明するために、きちんと文章にしてメソッドとして体系化して。そうして普及していかないと難しいですよね。

三橋
ミッシェルはそれをやった。アメリカで何も知らない生まれたての子にジャズのスタンダードというものがあるから聴きなさいと。書物にして。あとは譜面ですね。譜面で伝えることはやっぱり重要。

木場
今回楽譜の作り方の上で、中山さんにはピアノを入れてもらって、でもリズムセクションが入った時にトリオなどでも演奏できるような幅をあらかじめ持って書いて欲しいと、私からお願いしているんです。

三橋
ホールの音響にもよりますけど、ベースが入っていれば、例えばブレイクをしたり…。

中山
ええ、幅が広がりますよね。ドラムよりもベースが断然、大切かもしれない。ジャズらしさのフィーリングは一気に出ますよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

気さくにいろいろなことをお話ししてくださる中山さん。

日本の今のジャズの現状について、熱く語る三橋代表理事。

【楽譜に記す責任】

三橋
でも、譜面に書ききれないことっていっぱいあるじゃないですか。

中山
私自身、留学前から楽譜主体というか、良くも悪くも楽譜に頼るタイプだったんです。だから例えばアカペラグループに参加したときに、周りの人は中には1回の初見の練習で暗譜しちゃう人もいる。私は到底それは無理で、目の情報に頼っちゃう。練習のたび毎回譜面を読んでるんです。楽譜に頼りすぎちゃう。
でも逆に自分で楽譜を書く側になった時、いかに楽譜に情報を盛り込むか、文字じゃない情報で伝えるかを心掛けてます。常に自分で教えに行ける訳じゃないし、常に全ての出版される楽譜に音源がついていく訳じゃないですし。曲が広まって欲しいと願えば願うほど。

三橋
裾野を広げるっていうことは、良質のアレンジ譜を作ることと、それを音楽の指導者の方にいかに正確に伝えるか。良い音楽を楽しく歌う方向にいくように伝えるか、ということに尽きるのかなと思います。

木場
楽譜に書いてあることをそのままやったらすごく良いグルーヴ感がワッと現れて、というくらいに楽譜に書き込まれていたら、それはそれでもう充分楽しめたりする。

中山
はい、それをバークリーでまじまじと学びました。奨学金を受けていたので、その代わりに「恩返しバンド」に入って楽器演奏する義務があったんです。週1回、作曲の生徒が課題で書くアレンジを、実際音にする。その演奏をしていたんです。基本的に5管とリズムセクションを書くんですけど、だいたい2回通すだけなんですね。大抵の生徒は課題としてこなすのが精一杯で。でも色々なレベルの違う生徒の楽譜を初見で演奏する、そういうことを3年間やらせてもらった。

楽譜の大切さ、まさにタイムイズマネーで。特にその時は1人2回しか演奏されないので、その瞬間「自分はこんなはずじゃない」って思っても、もう楽譜渡しちゃってるし、次の人の順番もあるから、その場で直したり指示したりの時間はないんですよ。1発勝負なんです。 楽譜を出版したら、要はそういうことじゃないですか。

木場
うん、手を離れて行っちゃうからね。

中山
だから演者を信用することも大切だし、信用する勇気を持つことと、そして彼らに情報を与える責任を持つように心がけているんです。

 

 

木場理事とは同じ編曲者として、共有する部分も大きかったようです。

【世界の音楽、日本の音楽】

中山
でもやっぱり日本て島国なんですよね。オンライン(ネット)って良さも悪さもあって、自分で興味を持った時にすぐになんでも調べられることは本当に素晴らしいんですけど、逆に自分が知らないと情報が入らない、自分の興味持ったことに関係することはfacebookとか、なんでもアルゴリズムでどんどん来るんですけど、自分の知らないことに関しては知らなかったら調べないから一生出会わないですよね。i-tunesで好きな音楽聴こうと思った時に、好きな音楽は知ってる言葉でキーワード検索しますけど、その隣にある全然関係ないものには出会わない。例えば図書館でジャケット見て、なんだろうこれ、みたいな出会いって起きないですよね。

逆に私が学校の友達と、「どういう音楽聴くの?」って交換したことって、日本にいたらとても出会わなかったであろうことがたくさんあるんです。いろいろな国の。例えばインドの音楽とか、それらが融合した音楽とか、それこそジャズを使ったロックってかっこいいじゃん、とか。ロックは聴かないだろうって思ってたんですけど聴いてみたら楽しいとか。

三橋
それは日本の経済でも危惧してることなんですよね。だから日本はもう取り残されるんではないかって。
音楽の話でいうと、別にアメリカにかぶれているんじゃなくて、アメリカを通して、いろんな音楽を融合させていく。ジャズのメソッドっていろんなものを取り込める方法論じゃないですか。

中山
そう、自由さがありますよね。

三橋
だからそこを利用して、いろんな音楽とクラシックとか民族音楽とか日本音楽とか。あと忘れちゃいけないのは、見た目が日本人ですから、それも大事にした方がいい。
でも日本のものだけやって育ったわけじゃないですから、とらわれずに感じたものをいろいろイーブンでやって行った方が。子供達の事を考えるなら、たぶん色々な国のものをやった方がいいんでしょうね。

中山
ええ、やはり音楽は言語ですから。
バークリーで感じたことなんですが、向こうにいる日本人て日本の音楽を演奏しないんですよね。他の国の生徒、例えばインドとかギリシャとかトルコとかって自分の国の音楽をやるんですよね。例えばインドのマイクロトナールとかリズムも複雑だし。それをイスラエル人とブラジル人で演奏する。そうするとそれぞれのお国の音楽の要素が入り込んで、それをインド人がいいねと言いって聴いている。
そしてインドにいるインド人がYoutubeで見て楽しむ。

三橋
へえ、平和ですねえ(笑)。

中山
でも実は今、「日本」はすごい人気で。

木場
私もゲーム音楽に仕事で関わる事ありますけど、逆輸入もの多いですよ。日本のものが海外でアレンジされて戻ってくるケース。

中山
私も留学して最初の1学期目は学校が勝手に授業割り振るんですけど、最初に割り振られた授業が「コンテンポラリー・オーケストラ」だったんですね。トロンボーン持って。で最初にやった授業が「ファイナルファンタジー」で。

三橋、木場
へえー!(笑)

中山
ボストン交響楽団のホールが徒歩5分くらいなんですよ。そこで「ファイナル・ファンタジー」の世界ツアーのボストン公演をバークリーがやるって事で。客席の熱狂ったらない。

三橋
それはまさにコンテンポラリー!(笑)面白いですね。
でも実は、そういう音楽に対応する音楽家や指揮者ってあまりいないんでしょう?

木場
うーん、そうですね。注文に対して「わかりました、じゃあこうかな」って、そういう形でできないとダメなので。自分のアートにこだわちゃうとできなくなっちゃう訳です。
監督の注文の意図を汲んで技術を提供する、そういうことに上手く咬めることが必要かも知れない。それは悪い意味じゃなくて。

中山
ああ、そうですよね!

三橋
どこら辺で線引きするかの折り合いですよね。

木場
ただ納得するところまで持っていかないと、ですね。

三橋
仕事もリミットがあるから。湯水のごとく時間があるからいいってわけじゃないですね(笑)。

【今後のこと】

木場
最後に中山さんの、現在取り組んでいることや今後の予定を教えてください。

中山
6月末に一週間ほど、今年もメキシコでの演奏旅行が予定されています。それと同時に自分のアカペラグループを始めたいと思っています。
今までは様々なジャンルの楽曲をアカペラアレンジしてきましたが、グループ発足のため、もう少し方向性を統一したアレンジを作りたいです。まずはミュージック・ビデオの発表から始めたいと思っていますので、私のSNSフォローをよろしくお願いいたします(笑)。

 

2019年6月3日 新宿区のJVSJ事務所にて

 

《中山 義恵/なかやま よしえ》

公式ホームページ https://www.yoshie-music.com/about-jpn

LA在住の音楽プロデューサー、作曲家、編曲家、トロンボーン奏者、シンガー。国立音楽大学音楽教育専攻卒業。バークリー音楽大学コンテンポラリー・ライティング&プロダクション専攻専門課程を首席卒業。同学科より功績賞受賞。
彼女が特に得意とするのは、マンハッタン・トランスファーやVOX ONE、ACCENT、M-pactのメンバーからも賞賛を得たアカペラ作品。手がける作品は様々な楽器編成に渡り、ジャンルも、ジャズ、民族音楽、モータウン、ラテン、アフリカン、ポップス、エレクトリック・ポップス、CM音楽など多岐に渡る。

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