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第2回 オープンマイク・レポート

第2回 ソロヴォーカルのためのミニワークショップ&オープンマイク レポート
2018年7月26日(木)
成城学園前 Cafe Beulmans 
文責 金親清香(ピアニスト)

 

 第1回の三橋りえ氏によるワークショップに続き、今回はJazz ヴォーカリストとしては勿論、指導者としても活躍されている秋葉隆行氏を講師にお迎えして行われた。
 今回の講座では、「Jazz Vocalの歴史(A Chronicle of Jazz Vocal)」と「発声に必要な注意点(Keys of Voicial Care)」の2つをテーマとして取り上げた。「発声に必要な注意点」に関する講義では、ヴォーカル指導においてよく言われる“足を肩幅に開く” “上から吊られるイメージを持つ”などの直接の方法論ではなく、体の構造や脳の仕組みに基づいて「どうしてそうなるのか」「どうしたらわかるのか」という切り口で行われた指導は、大変興味深いものであった。

 まず、「Jazz Vocalの歴史」に関してだが、今回はビッグバンドと共に歌っている楽曲4曲(Just One of Those Thing/Sarah Vaughan、Lonesome Lover Blues/Billy Eckstine&Count Basie、Day Dream/Ella Fitzgerald&Duke Ellington、By Myself/Helen Merrill&Gil Evans)を参考音源としてピックアップし、1900年以降、Jazz Vocalが辿ってきた歴史を紐解いた。
 ビッグバンドはもともと、インストゥルメンタルのダンス音楽だったそうだ。ずっと踊り続けていると疲れてしまうことから、途中からヴォーカリストが登場するようになり、ビッグバンドをバックにJazz Vocalを歌うスタイルが確立されていったという。

 上記4曲を聴いて共通に言えることだが、もし、これらの音源を生で聴いていたら、ビッグバンドの音量というのは相当に大きい。そのため、ビッグバンドの上でこれだけヴォーカルがバランス的によく聴こえるというのは、やはりそれなりの声量、良質な発声が必要であることがわかる。
 だがその一方で、単にヴォーカリストの歌唱法が素晴らしいだけではなく、やはり使っているマイクの質が時代の変化と共に発達していることも大きなポイントの1つと言える。一昔前にマイケル・ジャクソンが新技術を駆使しPVという新たなツールの使用により大流行したように、時に、テクノロジーが音楽そのものの良さ、新しさを提案していくのだ。今回聴いた4曲の中では特に、By Myselfでは、4曲の中では比較的新しい曲であることもあり、録音されている音の緻密さ、ローズピアノによるエレクトリックなサウンド、Helen Merrilの囁くような独特の美しい歌声が綺麗にビッグバンドにのっていることから、テクノロジーの進歩を感じることが出来る。

 少し歴史の話とはずれてしまうが、秋葉氏はマイクの興味深い性質についても触れた。
 マイクは、離すと低音成分から減っていくそうだ。つまり、ただ音量が小さくなっていく訳ではないのである。そのため、マイクから離れていると、いくら手もとのつまみでボリュームを上げても、高い成分しかないため、良い結果は望めないとのことだ。私はピアニストのため、勿論初めて知った知識だが、これはヴォーカリストでも知らない方は多いのではないだろうか。テクノロジーの進歩により、色々なことが可能になる中でも、ヴォーカリストにとってマイクコントロール技術がとても大切であることがよくわかった。

 

 そして講義後半では、いよいよ歌うことに直結してくる「発声に必要な注意点」に関して、よく言う良い姿勢というのはどういった状態なのか、また、どうして良い姿勢が必要なのか、ということについて話された。

 ここでキーワードとなったのが、「ボディーマップ」という言葉だ。ボディーマップとは、頭の中にある、「自分の身体はこう出来ている」というイメージのことだそうだ。人は自分の身体の実際の構造に基づいてではなく、この、ボディーマップに基づいてのみ身体を動かす。そのため、マップが実際の身体の構造とずれていると、上達の妨げになるだけでなく、最悪の場合故障に繋がるという。逆に言うと、技術的な練習ではなく、マップが実際の身体の構造と合うことで出来るようになることは沢山あると秋葉氏は言う。
 さて、ここでなぜ良い姿勢が必要なのかということだが、体を動かすために必要な筋肉というのは、実は「縮むこと」しか出来ないのだそうだ。そのため、よく脱力が大事だと言うものの、力を抜こうと色々トライしても、意識した新たな部分に力を入れていることになってしまう。力が入っているところから部分的に力を抜くのではなく、力が抜けているところから必要な部分に力を入れる練習が必要で、その力が抜けている状態、力が入っている状態からリセットされた状態、これがいわゆる良い姿勢なのだそうだ。

 では、どうしたら良い姿勢を作ることが出来るのかということだが、そのためには、6ヶ所の関節(1.足関節、2.膝関節、3.股関節、4.第3腰椎、5.AO関節、6.肩関節)のポジションを綺麗に揃えることが大事だそうだ。ワークショップでは、実際に身体を動かしながら自分のボディーマップのずれを知ると共に、それぞれの関節のポジションを整えていった。
 私もやってみたが、思っていた以上に自分のマップが実際の身体の構造と食い違っていること、また自分の身体の構造を知らずに今まで過ごしてきたことを知り、とても驚いた。参加者の様子を見ていると、おそらく他の参加者も同じように感じていたのではないだろうか。例えば、膝関節は膝小僧の裏にあるイメージだが実際には膝小僧より下であるし、股関節はいわゆるリカちゃん人形で切れているところをイメージしがちだが、実際にはそれより上の方だ。
 秋葉氏は、是非日常生活の中のちょっとした時間で、姿勢を意識しボディーマップを正していって欲しいと言う。力が抜けていることが全ての始まりであり、姿勢と呼吸がしっかりしていれば、不調の時にすぐリセット出来るようになる。リスタートスイッチを持てる余裕を持ってほしいとのことだ。

 全ての講義が終わり、すっと立っている参加者の姿勢が、この短時間で見違えて良くなっていることは、この分野において素人である私の目から見ても一目瞭然であった。

 

 今回はヴォーカリスト向けのワークショップで、私は伴奏者として参加したわけだが、今回取り扱われた、姿勢、ボディーマップの話は、ヴォーカリストは勿論、全てのミュージシャンにとって大切な内容であると感じた。私もピアニストとして、今回のワークショップで学んだことを日々の生活の中に取り入れ、内側の感覚を研ぎ澄ましていきたいと思う。

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